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ある見物

青苧復活夢見隊:2015/05/08

このところの好天、高温で虫もいつもより早めに飛び出しています。
少し山に近い畑で何日も仕事をしていると、あれよあれよと虫に喰われてしまいます。
休憩でしばらく座っていたり、シャツを着替えようと上半身裸になったりすれば、わずかな時間で彼らの餌食になっています。
蚊やブヨでもない、羽音を立てて向かってくるでもないその小さな奴らは、無数のヒットアンドアウェーを私の身体に残しています。

 

見れば首回りや腕や脚はもちろんのこと、胸、腹、背中とまさに全身が彼らの標的となりました。
掻けば痒くなるのだから掻くまいとは思うものの、一度掻き始めたらもう後戻りできません。
米粒大のものから、ゴマより小さな刺し跡まで、あちらを掻いてはこちらを掻いてと、とにかく手の休まる暇がありません。
モグラ叩きでもこれほど上手く、あちこちには顔を出せないのではないでしょうか。
右手で左腕を掻きながら左手で脚を掻き、次に首を掻いたと思ったら今度は背中と、千手観音とまではいかずとも、『キン肉マン』のアシュラマンばりに腕の6本や8本は欲しいところです。
さすがに足の爪までは使いませんでしたが、もう少しでたかだか虫刺されに三所攻めを繰り出すところでした。

 

手で掻いているくらいだとまだ二箇所程度ですが、被害が密集している所へ熱めのシャワーを当てようものなら、それはもうイタキモならぬカユキモの極致です。
炭酸がシュワーッと泡立ったかのような、言い知れぬカユキモ感が患部だけでなく、脳にまで到達します。
これははっきり言って新しい快感です。
しかし、手を離すとまたただの痒みが湧き上がってくる。
また、古い刺し跡などは鈍く変色して今しばらくその痕跡を残しており、それを見つめるとせつなさも募ります。
帰ってから風呂場で私がこれほど悶え苦しんでいるとは、彼らは露ほども思わないでしょう。

 

しかし、体積でいえば蟻と象と言っていいほどの差がある彼らにここまでしてやられるとは無念の一言。
やられた方はいつまでも覚えているが、やった方はさっさと忘れてしまうという人間世界の法則が、私が敗者となって虫との間で成立してしまった事実は至極残念です。

 

ところで、地球外の生命体の方は、三次元世界の存在ではないために肉体がないのだそうです。
というよりも、地球以外の宇宙では、肉体を持って存在するというこの地球の方がよほど特殊らしく、様々な星から色々な宇宙人が好奇心を持って集まってきているそうです。
彼らは三次元ではないのだから、時間も空間もなく、千里の道も一瞬で移動できます(そもそも千里の道がないのかも知れませんが)。
先ごろ、北陸新幹線が開業して東京~金沢間が最速2時間28分になったというニュースも彼らにとっては一体なんのこっちゃということかも知れません。
しかし、そんな彼らも肉体がないのだから、当然痒みも知らないでしょう。

 

痒いということを伝えるにはどんな言葉を駆使したらいいのでしょうか。
痒みは掻きすぎると痛く、ピンポイントで掻けると気持ちよく、ピンポイントで掻けないともどかしく、快でもあり不快でもあって、考えてみるとなかなかに奥深い感覚です。
ただ、あれこれ考えてみても上手く分かってもらえそうな妙案はなく、すると考えるのも面倒になり、しまいにはそんなことも知らないのかと言いたくもなります。
千里の道をテレポーテーション出来る彼らも、痒いを知らないとなればそんなに畏怖することもない、結構対等に考えたっていいのかも知れません。

 

そんな三次元の大地へ、2013年4月以来、二年ぶりの根分けを行いました。
場所は前回移植した畑の隣りで、二年前に根付いた青苧たちはこの時期10cmほどの高さまで背を伸ばしています。
掘ってきた根っこは鉛筆くらいに細いもの、芋みたいな格好のもの、宇宙ステーションのようなごついものまで様々で、これを15cmから20cmくらいの間隔で置いていきました。
作業は、溝を切る人、そこに根っこを並べていく人、土をかぶせる人、水を運ぶ人、水をかける人と、それぞれが自分の役割を持って極めてスムーズに進んでいきました。
私はあれする、あなたはこれしてと言わなくても整然とこうしたことが行われていくと仕事も楽で、これは農耕民族の資質と言っていいものでしょう。

 

根っこは縦、横、高さの世界に三次元的手法で植えられたのですから、当然三次元的生長を見せるでしょう。
地球外の皆さんも参加はできないでしょうが、興味があればそこらで高みの見物でもしていて下さい。